新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威は、世界中で拡大しており、数年単位の長期戦も予想されています。
現代社会における人類最大の課題と言っても過言ではない新型コロナウイルスに関するさまざまな課題に対して、熊本大学は英知を集結させ解決策を模索します。令和2年7月、新型コロナウイルスの課題解決を目指した熊本大学の研究を支援する「アマビエ研究推進事業」がスタートしました。
新型コロナウイルスのしくみや感染を防ぐ方法、新型コロナウイルスによって変化を求められている社会のあり方や教育についての研究を推進し、研究大学として研究成果をいち早く社会に還元して参ります。
RNAヘリケースはRNAの転写、スプライシング、翻訳、分解、RNAウイルス感染に伴う自然免疫応答など、種々のRNA代謝に関与し、P-body、ストレス顆粒や核小体などRNA顆粒に局在する。新型コロナウイルスSARS-CoV-2は30kbとRNAウイルスでは最大クラスのRNAゲノムを保持し、多くの未だ機能不明な未知のウイルスタンパク質をコードしているが、ウイルス学的実体は解明されていない。本研究では、この巨大なウイルスRNAゲノムをどのように制御維持しているのか、宿主RNAヘリケース及びRNA顆粒にフォーカスをあて、巨大なSARS-CoV-2のRNAゲノムを制御するメカニズムを解明し、未だ有効な治療薬の無い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、ウイルスRNAを標的に創薬を目指した新型コロナウイルスの研究を展開したい。
すでに私達は、核小体に局在するRNAヘリケースDDX21をノックダウンしたヒト培養細胞にSARS-CoV-2を感染させると、驚くべきことにコントロールに比べて、約4000倍ウイルスRNA複製レベルが顕著に増加することを見出している。この結果は、DDX21 RNAヘリケースがSARS-CoV-2の感染増殖を強力に阻止する抗ウイルス因子であることを示唆する。そこで、本研究では、種々の宿主RNAヘリケースのSARS-CoV-2 RNAゲノム複製制御における役割を解明し、SARS-CoV-2 RNAゲノムを標的としたRNA創薬を目指した新たな抗ウイルス治療戦略につなげたい。
2019年に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) は、全世界で400万人以上、日本では15000人以上の死者を出し、現在もなお我々人類の脅威となっています。その原因ウイルスは新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) です。一般的にウイルスは、自己複製が不可能であり、感染細胞の様々なタンパク質を利用することにより自身を複製します。宿主因子とは、ウイルス複製に関与する宿主由来のタンパク質のことを指しますが、SARS-CoV-2がどのような宿主因子と相互作用して、自身を複製しているのかはまだほとんどわかっていません。SARS-CoV-2複製における宿主因子の役割とその作用機序を明らかにすることは、今後、このウイルスに対する薬剤を開発する上で非常に重要であると考えられます。
これまでの報告では、SARS-CoV-2の配列情報の解析により、SARS-CoV-2 RNAゲノム上に変異が蓄積していることが報告されており、宿主因子とSARS-CoV-2の相互作用がSARS-CoV-2の進化に寄与している可能性が示唆されています (Di Giorgio et al., Sci Adv, 2020; Klimczak et al., PLoS One, 2020; Simmonds, mSphere, 2020)。しかし実際に宿主因子が、SARS-CoV-2の進化に寄与していることを証明した研究はありません。そこで本研究では、SARS-CoV-2複製における宿主因子の役割とその作用機序を明らかにすることを目的として、研究を進めていきます。
免疫応答には個人差があり新型コロナワクチン接種でも抗体ができやすい人や副反応が強い人もいる。そのような個人差の原因を解明するために熊本大学病院での医療従事者向け新型コロナワクチン接種に関連した臨床研究を実施した。ワクチン接種前後の血液中のサイトカイン量の測定とワクチン副反応の調査、さらに、1ヶ月後の抗体価について測定したところ、新型コロナワクチン接種後の副反応が強い人は、血液中の炎症性サイトカインであるTNF-αの値が高い傾向があることが明らかになった。TNF-αはT細胞から産生され免疫応答を活性化する働きをもつ。実際に、このTNF-αの値が高い人は副反応だけでなく抗体価も高い傾向があることが明らかとなった。また、男性と女性で比較すると女性の方が、抗体ができやすいことや、副反応も強い傾向があることがわかった。一方で、鎮痛剤の使用は抗体価には影響しないことなども示唆された。このようなサイトカインや性差以外の要因として、私たちは血液の細胞外小胞内に存在するマイクロRNAに着目したところ、抗体ができやすい人に特有のマイクロRNAや、副反応が強い人に特有のマイクロRNAを発見した。細胞外小胞内はワクチンだけでなく、癌やその他の病気のバイオマーカーとして、研究が世界的に研究が進められており、今後、このような細胞外小胞の中に存在するマイクロRNAをさらに研究することで、副反応が無く予防効果が非常に高いワクチンの開発につながると期待される。
病院で使われる医薬品のほとんどは「小分子化合物」と区分されるもので、その小分子化合物が 標的としている対象の9割以上はタンパク質だと言われています。従って、現在世界を震撼させている コロナウイルス治療薬もコロナウイルスが生体内で生き残る(増殖する)ために必須のタンパク質を標 的とした開発を進めていると想像されます。
一般論ではありますが「良い薬」と言われる薬は、1病気に関係しているタンパク質(コロナウイルス 治療薬の場合やコロナウイルスのみがもつタンパク質)のみに結合して作用する、2他のタンパク質に は一切結合しない、という二つの要素を満たすものだと思います。しかし、これらの条件を満たす小分 子化合物を開発することは(特に2の要素を満たす小分子化合物)非常に困難で、10年を越す 歳月と数百億円を超える費用がかかるため、製薬会社は大きなリスクを抱えた上でコロナウイルス治 療薬開発を進めざるを得ません。さらに、昨今問題となっている「変異型コロナウイルス」が、治療薬標 的タンパク質で変異を起こしていた場合は治療薬効果が無効化させる可能性も有しています。
このような背景から私たちのグループではタンパク質を生産する過程で生まれてくる「mRNA」を標的 にした医薬品の開発を目指しています。
近年の遺伝子開発技術は爆発的に向上しており、標的とするコロナウイルスのmRNA配列解析も 数日で解析を終了させることができます。理論上は次々と出現する変異型コロナウイルスにも迅速に 対応することができるので、様々な実証実験を展開しコロナウイルス治療薬へと発展させたいと考えています。
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスは、Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2)と呼ばれている。COVID-19症例の多くは無症状または軽症であるが、重症例ではレスピレーターやECMOを必要とし死亡率も高い。ワクチンの接種が開始されているものの、ワクチン接種者の感染死亡例も報告されていることから、COVID-19はワクチンを持ってしても人類の恐怖である感染症であり、SARS-CoV-2の封じ込め、すなわち治療薬の開発が喫緊の課題である。感染症と治療薬創出の歴史をみて明白なことは、常に新規治療薬の創出が必要であるということである。SARS-CoV-2の変異獲得頻度は高い。したがって、変異ウイルスにも奏功する治療薬開発が重要である。
本研究は、SARS-CoV-2を封じ込めるためにはSARS-CoV-2の感染動態を知る必要があるという観点から展開する。ウイルスは、細胞に100%依存し増殖する。したがって、細胞の置かれる状態や環境を十分に考慮する必要がある。生体組織は個々の細胞から構築され、それぞれの細胞に供給される栄養素が異なる。そこで本研究では、栄養素が生体に与える影響を細胞レベルで検討する医学である「分子栄養学」に着目する。本研究によってSARS-CoV-2感染時における細胞外栄養素がウイルス複製に与える影響を検討し、細胞外栄養素に応じて変化するSARS-CoV-2感染細胞やSARS-CoV-2粒子を構成するタンパク質群を明らかにすることで、治療薬の標的となりうるSARS-CoV-2感染に必須となる因子を同定を目指す。
多人数が集まる会議室や飲食店舗などは密になりやすい空間であり、ウイルスは目に見えないため、1人でも感染者がいると感染のリスクは著しく高くなる。一方、人間から排出されるCO2も目や鼻では感知できないが、センサによってその濃度を監視することで、CO2とともに排出されるウイルス等の存在可能性を予見できる。そのため、CO2センサはウイルス暴露防止の有効手段として大いに期待されている。空間のCO2濃度を連続的にモニタし、空気環境を可視化すれば効率的な換気が可能となり、コロナウィルスの感染予防に大きく貢献できる。この社会的要請に応えるように、CO2センサが飲食店や会議場、映画館、ライブハウスなどに設置され始めている。しかし、多くのCO2センサは赤外吸収型の物理センサであり、以前に比べれば小型化が達成されたものの、光学式であるためセンサはやや大きく、手軽に持ち運びができるものは少ない。そこで本研究では、密閉空間におけるウイルス暴露を防止するための小型超薄型の全固体型CO2センサの開発を目指す。室温において優れたイオン導電性を示す炭素超薄膜とCO2感応性電極を組み合わせることでそれを達成する。小型・軽量で持ち運びができ、Bluetooth技術でスマートフォンと連動可能なCO2センサが開発されれば、何時でも何処でも室内空気質をチェックし、ウイルス暴露のリスクを大きく下げることができる。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する効果的な治療法は確立されておらず、重症化を阻止する治療薬の開発が望まれています。新型コロナウイルスの表面に結合して感染を防ぐ中和抗体は、治療薬の本命と言われ、最近では米国Regeneron Pharmaceuticals社の「ロナプリーブ」が日本でも特例承認されました。しかしながら、COVID-19は変異株の流行という新たな局面を迎えており、従来よりも感染性や重症化率が上昇していることが示唆されています。中和抗体についても、変異株に対する効果が弱いことが懸念されています。我々はCOVID-19で重症化後に急速に回復した症例から単クローン抗体を分離しました。全部で1102の単クローン抗体を分離し、5抗体が中和活性を持っていました。中和抗体のうち、ウイルスへの結合活性の弱いものは南アフリカ型、ブラジル型などの変異株に抵抗性でした。しかし、最も強力な2抗体は、英国型、南アフリカ型、ブラジル型、インド型などの変異株を低濃度で中和しました。一方で、他の抗体の研究から、中和活性のない抗体のサブクラスがIgG1からIgG3に変わることによって抗体依存性細胞障害活性が著しく上昇することを見出しました。これらの結果から、新型コロナウイルスに対する抗体についてもサブクラスを変えることにより、抗体依存性細胞障害活性の増強が期待されます。このため、変異株にも有効な中和抗体のサブクラスをIgG1からIgG3に改変し、中和と抗体依存性細胞障害活性をを増強した抗体を作り、COVID-19治療への臨床応用を目指します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主な感染経路は、飛沫と接触である。COVID-19は発症前でも他者に感染することから、公共の場においては飛沫感染予防策としてのマスク着用が推奨されている。ワクチンが開発され、接種も進行しているが、変異種に対してはワクチンの有効性も下がることなどから、マスク着用が必須な社会が長期化することが予想される。
しかしマスクを着用することで声が遮断され、マスクが物理的な周波数フィルタとなることから、コミュニケーションの阻害要因となる可能性が高い。前年度のアマビエ研究推進事業で前田らが行った研究において、マスク着用時4000~6000Hzにおいて音圧レベルの減衰が見られた。また、平均年齢20.1歳と若い年齢層による試験にも関わらず、マスク着用により正答率は低下した。高齢者の聴力低下は高い周波数域から障害されることから考えると、マスク着用によりさらに聞き取り難さが生じることが予測できる。
コミュニケーションが困難になると、高齢者は周囲の危険察知能力が低下し転倒や事故のリスクが増加する。また、孤独感や不安、意欲の減退など精神的影響を及ぼし、地域社会との交流を妨げ、結果として認知機能悪化にも影響を与えかねない。医療現場で患者と医療者間及び医療者間での聞き取り間違いやコミュニケーション障害が生じると、誤薬などの医療事故にもつながる。そのため、マスク着用時でも円滑なコミュニケーションを確立するためには、新たなコミュニケーション補助ツールの開発が求められる。
そこで本研究ではwithマスク時代における良好なコミュニケーションを確立するため、研究代表者である小林の独自技術である多孔性圧電膜を使用したフレキシブルマイクを用いて①コミュニケーションを阻害しないマスクの開発と、②作業中に支障がない咽頭マイクの開発を行い、マスク装着時にも円滑なコミュニケーションの確立を目指す。
新型コロナウイルスが流行している現在、新たな抗ウイルスあるいは抗菌材料の開発および応用が要望されている。新型コロナウイルスは、飛沫感染と接触感染が原因だと指摘され、その中、感染経路が最も多いのは接触感染となる。アルコール塗布では一時的な抗ウイルス・抗菌効果しか期待できないため、持続的効果のある抗菌・抗ウイルスコーティング剤が求められている。一般的な抗ウイルス・抗菌材料は光触媒や銀イオンを用いて効果を出すが、光照射が必要であったり、環境への負荷といった問題がある。一方、我々は有機溶媒に分散する疎水性グラフェン量子ドットを簡便に調製する手法を見出した。これは、これまで報告されている水溶性グラフェン量子ドットと違い、高い抗菌・抗ウイルス活性を持つことが確認できた。また、疎水性グラフェン量子ドットは水には分散しないため、雨など水に触れてもその場に保持され、持続的な効果が期待できる。この疎水性グラフェン量子ドットは有機溶媒に分散させることができるため、様々なポリマーと混合することができ、得られるポリマーフィルムに抗ウイルス・抗菌性を付与することができる。さらに、この疎水性グラフェン量子ドットは安価に製造可能で安定な材料であるため、大規模な工業生産にも適している。本研究では、屋内用建築塗料、医療機材用塗料、生活用品など様々な塗料を想定し、グラフェン量子ドットを様々な油性塗料用あるいは水性塗料用ポリマーと混合し、抗ウイルス(コロナウイルスも含め)・抗菌塗料を開発する。
熊本大学主催イベントとして,①子供や保護者を対象としたものづくり教室や②それらを企画・運営する指導者の養成講座を長期にわたり実施してきました。
ものづくり教室は,毎年5地区(県北・県央・県南・天草・被災地)で実施し約2,000人/年にものづくりの場を無料で提供しています。教育学部の学生・教職員,中・高等学校の教員,一般ボランティアが指導者となり,熊本大学の地域貢献事業となっています。
指導者養成講座は,木育やものづくりの意義を理解し,ものづくり教室等を企画・運営できる指導者の養成講座です(参加費は無料)。最近は年に8回実施し,延べ2,850人の修了生がいらっしゃいます。修了生が独自にイベントを開催したりするなどの事例が,県内外で見られるようになりました。
しかし,近年のコロナ禍の中,ものづくり教室も人数を制限するとともに,完全予約制とし開催時間も縮小し実施しています。指導者養成講座も,例年であれば1講座に30〜40人を受け入れ実施していましたが,昨年度から,20名程度に限定し実施しています。さらに,他県からの参加希望者も多数見られましたが,県境超えが制限されていたため,他県からの参加者はお断りすることも発生しています。それらの改善と今後の発展的展開を目指し,ハイブリッドによるものづくり教室と指導者養成講座の開発を行うとともに,効果の検証を行います。
具体的には,事前に教材のキットを送付し,You Tube等で動画を視聴したり,Zoomで一緒に交流しながらものづくりを行います。また,指導者養成講座も,ハイブリッド型に変更し,遠隔・非同期で行う講義を中心とした講座,遠隔・同期で実施する意見交換や講義内容の理解を深める講座,対面で実施するものづくり教室を研修の場として活用する実習を中心とした講座に改変し,他県を含め,遠隔地にいる受講希望者が参加しやすい形態を検討します。これにより,参加者数や開催回数を増やすことも可能と考えています。
ウィルスが感染する細胞(宿主細胞)には、ウイルス感染を防ぐタイプの遺伝子と、促進してしまう遺伝子があることが知られています。自然免役に関わる一連の遺伝子は、感染を防ぐ役割があります。紫外線の照射などにより遺伝子の本体であるDNAが傷つくとおこる細胞内の反応のことを、DNA損傷応答と呼びます。DNA損傷応答に関与する遺伝子には、自然免役に関与しているものが知られています。DNA損傷応答因子が、HIVを含む多様なウィルスの感染を抑制することが報告されています。
新型コロナウィルス感染に対する、宿主側の防御因子を明らかにすることが、この研究の目的です。新型コロナウィルス感染に伴い、宿主ヒト培養細胞でDNA損傷応答がおこることがわかりました。特定の損傷応答因子をノックダウンすると、新型コロナウィルス増殖率が増加しました。他のDNA損傷応答因子をノックダウンすると、新型コロナウィルス増殖率が大幅に増加するものが複数見られました。これらとは別のタイプのDNA損傷応答因子をノックダウンすると、新型コロナウィルス増殖率の低下が見られました。このため、DNA損傷応答因子には「新型コロナウィルス増殖を防ぐ因子」と「新型コロナウィルス増殖を助ける因子」が存在することがわかりました。新型コロナウイルスに感染したヒト宿主細胞がDNA損傷応答反応により、ウイルス感染の増悪を防ぐメカニズムを明らかにしたいと思います。この研究は、ヒトレトロウィルス学共同研究センターの有海先生との共同研究で行われます。
我々はこれまで細胞の中にあるリボ核酸(RNA)と呼ばれる物質に関して研究を続けてきました。特にこのRNAの中には多彩で複雑な化学修飾(メチル化やイオウ化など)が存在しており、その化学修飾がヒトの中でどのような役割を果たしているか? 病気とどのような関わりを持っているか?ということに興味を持ち研究してきました。実はCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2にも内部にRNAが存在しており、SARS-CoV-2のRNAにも化学修飾が存在することが報告されていました。今回我々は、COVID-19患者さんの血液や尿から、感染に伴って上昇する2種類の修飾ヌクレオシド(RNAの代謝産物)を見つけました。またこの修飾ヌクレオシドの上昇は、重症度や治療効果、予後予測を反映することを明らかにしました。今回このアマビエ研究推進事業のご支援で、Q-bodyと呼ばれる技術を用い、COVID-19特異的修飾ヌクレオシドの新規測定技術を開発することを目的としています。
新型コロナウイルス感染症の重症化には,ウイルスに対する免疫の暴走を発端とした異常な炎症反応から引き起こされる病態である急性腎障害,心血管障害,血栓塞栓症などが関与していると言われています。したがって重症化抑制薬剤としては免疫の暴走を阻止する免疫抑制剤であるステロイド剤などが現在治療薬として使用されていますが,この治療法はウイルスに対する免疫を抑制してしまうため,効果は限定的です。重要なことは、免疫暴走の引き金を引く分子を明らかにし,その分子に対する根本的治療法を開発することだと私達は考えています。新型コロナウイルスは,心血管系調節や炎症をコントロールしている分子であるACE2と呼ばれる分子に結合して細胞内に侵入します。その結果この分子の発現が減少することが明らかとなっていて,このACE2の発現抑制が,重症化の根本的原因ではないかと私たちは考えています。実際私たちの実験でもこの現象は試験管内でも確認できており,この発現抑制には、新型コロナウイルスがACE2に結合するために必要なウイルスタンパク質であるスパイクタンパク質が関わっていることを明らかにしてきました。このアマビエ研究では,どのような機序でウイルスのスパイクタンパク質がACE2分子の発現を抑制しているかを明らかにし,その発現抑制を解除できる薬剤の探索に役立てることを目的としています。この研究が進展することで,新型コロナウイルス感染症の重症化阻止に役立つ治療法の開発に寄与できればと考えています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2021 年 8 月現在、全世界において 2 億人以上が感染し、400万人以上を死に至らしめています。現在、世界中でワクチン接種が進んでおり、その有効性が示されています。その一方で、デルタ株をはじめとする一部の「懸念すべき変異株」に対して、その有効性の低下することも明らかになっています。現在、主に中和抗体(液性免疫)が免疫応答の指標として用いられていますが、それと比較して、ウイルス感染細胞の排除に重要な役割を果たしているT細胞(細胞性免疫)の解析はほとんどありません。その一つであるキラーT細胞はウイルス感染細胞を殺傷することでウイルスの感染制御を担う重要な細胞ですが、その取扱いが技術的に困難であるため、それを検証する方法がありませんでした。そこで、私たちは、長年HIV/AIDS研究で培ったヒトT細胞の研究経験を活かし、T細胞の抗ウイルス活性を評価する方法を新たに開発することにより、1)ワクチンで誘導されたヒトT細胞応答、ならびに、2)「懸念すべき変異株」に対する抗ウイルスT細胞応答を総合的に解析します。これにより、T細胞応答をヒト免疫応答の新たな指標として追加し、変異株に対するヒト免疫応答(T細胞と中和抗体)をリアルタイムに評価することで、新たな変異株の出現に備えたワクチン開発に貢献したいと考えています。
新型コロナウイルスの世界的流行は未だ終息の兆しを見せず、大きな社会問題となっています。本ウイルスにより発症するCOVID-19の症状は患者間の差が大きく、無症状〜軽症の症例から、急速に呼吸不全を来たし集中管理が必要となる重症化症例まで様々です。重症化には元々人間に備わっている機構である「免疫」の異常活性化が関与していると考えられており、重症例に対しては抗ウイルス薬であるレムデシビルに加え、ステロイド剤およびJAK阻害剤といった過剰な免疫を抑制する薬剤の併用が行われています。しかしながら、そのCOVID-19の発症機構や重症化のメカニズムには未だ不明な点が多く、その解明、重症化予測、治療法の開発には、患者の生体内で起こっている免疫応答を正確に把握する必要があります。そこで、私達はこれまでに、迅速に様々なウイルス抗原に対する抗体を検出できるluciferase immunoprecipitation system (LIPS)法という検査法を用いて、COVID-19罹患患者の血清中に存在する新型コロナウイルスに由来するタンパク質であるSpike1、Spike2、Nucleocapsid (NC)タンパク質に結合する抗体を測定し、重症化や治療効果との関連について研究を進めてきました。今回採択された研究課題では、さらに多くの検体の収集と解析を行い、重症化マーカーとなり得る抗体を探索することで、新しい重症化予測法を開発することを目的としています。
新型コロナウイルスは、世界中で未曽有の感染者と死者を出し続けていると同時に世界経済をまさしく大恐慌へと陥れております。しかも、このような状況は、第二波、第三波へと続き、長期になることが予想されています。このような状況に対して、本学はその理念に基づき、将来を担う人材の継続的育成と世界的課題解決を推進するため、従来の熊本大学基金に「新型コロナウイルス支援基金」を設置いたしました。
新型コロナウイルス支援基金の教育支援と研究支援の2つの事業のうち、研究支援事業では、新型コロナウイルスに関する国内外における重大な課題を、生命科学、自然科学、経済・社会学の立場から解決すべく、基礎から応用までの幅広い観点から研究を推進するための研究支援金として活用します。
熊本大学 新型コロナウイルス支援基金